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東京高等裁判所 昭和44年(う)2201号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は被告人本人並びに弁護人宇佐美隆彬提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。

被告人本人控訴趣意(事実誤認の主張)に付て。

所論は、被告人が本件自動車を運転して本件交差点に進入した当時被告人車の進行方向の交通信号機の表示は赤色(止れ)の信号ではなく、青色(進め)の信号であつたから被告人には停止信号を看過した過失はない。本件事故は相手方車両の運転手がその進行方向の赤色信号を無視して交差点内に進入した為め発生したものである旨主張するけれども、被告人の司法警察員及び検察事務官に対する供述調書を含む原判決挙示の証拠を綜合して考察すれば、原判示事実は、被告人車が本件交差点に進入した当時その進行方向の交通信号機の表示が赤色(止れ)の信号であつた事実を含めて優に之を認定することができ、記録を精査し当審に於ける事実取調の結果に徴しても原判決の事実認定に誤認の廉は存しない。被告人の前記各供述調書中原判示事実に符合する部分は爾余の証拠と吻合し十分に信用するに足り右認定に反する被告人の原審公判廷に於ける供述は単なる弁解の域を出でず到底措信するに由なきものである。論旨は理由がない。

弁護人控訴趣意(量刑不当の主張)に付て。

所論に鑑み検討するに、一件記録に現われた本件犯行の経緯、罪質、態様、過失の程度及び因つて生ぜしめた結果並びに被告人の年令、性行、境遇、経歴殊に被告人は、昭和三十九年六月八日から昭和四十三年八月十三日までの間に一三回の多数回に亘る道路交通法違反罪、一回の業務上過失傷害罪でいずれも罰金刑に処せられた前歴があること等の諸事情に徴すれば、本件被害者のうち横張靖行に対し車両修理代及び休車補償費として十二万五千円を支払い、被告人の雇主に於て右横張靖行の治療費、休業補償費及び慰藉料を支払うことを約して同被害者との間に示談が成立したことその他所論指摘の被告人の為め酌むべき有利な情状一切を十分斟酌しても原判決の量刑が重きに過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却し当審における訴訟費用は同法第百八十一条第一項本文によりその全部を被告人に負担させることとして主文のとおり判決する。

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